現在、90年代ストリートカルチャーが見直され、ファッションやアート、ミュージックなどもリバイバルの流れにあることはご存知でしょうか。
若者や最近のクリエイターたちが思想やデザインを取り入れ、その感性はとても身近になっています。
このブームのルーツやオリジナルはなんだろうと考えたとき、個人的にはビースティ・ボーイズ(Beastie Boys)の与えたきっかけや影響力が大きいのではとないかと思い、今回は彼らの作品とファッションについて考察していきます。
Beastie Boysのはじまり
HIP HOPのイメージしかない人も多いかもしれないけれど、1980年初期、彼らはハードコアバンドとしてNYでデビューします。Beastie Boysという名前はバッド・ブレインズ(Bad Brains)というバンドにあやかってつけたそう。
結成時はハードコアのムーブメントがまだNYにはあまり届いておらず、商業的には全くの失敗。でもこの時期の音源『Some Old Bullsit』も荒削りでかっこいいので聴いてみてください。
ちなみにこの時期からリック・ルービン(Rick Rubin)は彼らと親交があったようです。今のスタイルになるのはもう少し後になってから。
『Licensed To Ill』(1986年)
レッド・ツェペリンやAC/DCをサンプリング。リック・ルービンをプロデューサーとしてDEFJAMからリリースしたデビュー盤。ファーストアルバムにも関わらずサプライズメガヒットととなり、ストリートで大流行しました。
余談となりますが、リック・ルービンはRun-D.M.C.も手がけていますよね。RUN-D.M.C.はアディダスファッション、エアロ・スミスとのタイアップ曲も有名です。
『Paul’s Boutique』(1989年)
プロデューサーチーム ダスト・ブラザーズらとともにサンプリングを追求したセカンドアルバムを発売。10曲目”Looking Down The Barrel Of A Gun”のみギターベースを使用しているよう。前作品ほどのセールスはなかったもののHIP HOPシーン・ロック史においては重要作となっています。サンプリング音楽の頂点だと思います。
その後、Beastie Boysは彼ら自身のレーベル グランド・ロイヤル(GRAND ROYAL)を設立。モイストボーイズ、ルシャス・ジャクソン、ショーン・レノン、アット・ザ・ドライヴイン、日本のバッファロー・ドーターなどの作品をリリース。雑誌《GRAND ROYAL MAGAZINE》も発行。
なぜ彼らのファッションは注目されるのか
Beastie Boysが活動を始めて数年後、1991年にLAのヴァーモント・アベニューでアパレルブランド《XLARGE》が1号店をオープン。プロモーションやMVなどにふんだんに彼らのファッションが取り入れられ、アート界にも進出。この時期のX-LARGEはストリートブランドとしてのプライオリティがすごく高く、若者たちのファッションアイコンとなっていきます。あっという間に全米に広がり、NY、東京、シアトル、トロントと店舗数も拡大し、この日本でもブランドとしての存在感を確立しました。今では身近なファッションとして認知されています。
XLARGEのブランドロゴはみなさんもご存知のベンデイビス(BEN DAVIS)というワークブランドのゴリラを元にしたデザイン。店舗の品揃えはカーハートやベンデイビスなどのワークブランド、オールドのアディダス、プーマ、 ナイキのようなスポーツブランド。これは当時としてはあまりなく、画期的なことでした。今のセレクトショップのモデルケースとして捉えてもいいでしょう。90年代はこのお店から発信されるファッションとカルチャーが世界のストリートシーンをリードしていきました。
設立メンバーはイライ・ボナーツとアダム・シルバーマンというふたりの若者。当時のLAはヒップホップ、グラフィックアート発祥とされるNYとはまた違う形態で発展。スケートボードや音楽、カルチャーがミックスし、新しいカルチャーができつつあった時代でした。イライとアダム、このふたりにBeastie BoysのマイクDが加わりX-LARGEは更に発信力を強めていきました。
『Check Your Head』(1992)の歌詞カードや『Ill Communication』(1994)のジャケットの裏などを見ると当時のかっこいい、リアルなストリートファッションを見ることができます。
スケーターたちはカーハートやベンデイビスなどのタフなワークウエアに古着やスニーカーをルーズサイズに。アーティストたちもこぞってストリートブランドを着るようになりました。「普段着ではなくファッションとして実用なウエアを表現する」というX-LARGEのブランドコンセプトは瞬く間に広がりミュージック、アート、スケートカルチャーに多大な影響を与えました。Beastie BoysメンバーによるPV、ライブ、ローカルスケーターたちのスケートVHS、DJたちの着用など、オシャレストリートアイコンとなっていきました。
ちなみにブランド名の由来は、アメリカでの世代別の呼び名"ジェネレーションX"と大きく生きると言う意味の"Live Large(リヴラージ)"という言葉の掛け合わせ。
ジェネレーションXとは1960〜1970年半ばに生まれた世代のことで「ジェネレーション」=世代、「X」=当時の大人たちにとって理解不能な若者たちの総称として「X」を用いたようです。
イメージとしてはあの有名ドラマ「ドクターX」と同じような意味なのかなと。今でいう「ゆとり世代」や「さとり世代」のアメリカ版とでも想像してもらえたら近い気がします。戦争で厳格に育った世代から見たら自分たちの息子を含め若者たちは自由奔放でそれまでにない考えや行動が新しく見え、それが皮肉に映ったのでしょう。あんまりいい言葉じゃないかもしれないですね・・その後、ジェネレーションX→ジェネレーションZと続いていきます。
さいごに
現在、どこのお店でもX-LARGE、ディッキーズ、ベンデイビス、カーハート、アディダスにナイキなどは簡単に購入できます。また、上記のブランドたちは一様に流行に流させ得ないクオリティの高さ、普遍性があり、ストリートという特殊な垣根を越え、現在、一般層までユーザーを増やしています。ファッション、ストリートカルチャーに関心のない人も巻き込み、誰もが当たり前のように着ている。
すごいことですよね。
「当たり前に身につけている」
「なんとなくかっこいいから着ようかな」とか・・
でもその背景にある音楽やルーツを知るともっと楽しくなると思うんですよね。
何事においてもそうだけど事象には必ず理由やルールがあり、それを知るのはとても豊かなことで楽しいし、視点を変えることもできます。
では最後にアルバムを2枚を紹介してBeastie Boysの記事を終了したいと思います。
『Check Your Head』(1992)
全米10位にランクインした大ヒット作。
ロック、ジャズ、ファンク、レゲエの要素もあり。
他のアルバムと比べると少し雑多感もあるような気もしますが内容は充実!!
曲はチープ・トリックのサンプリング。
他にもテッド・ニュージェント、ジミヘン、バッド・ブレインズ、ビッグ・ダディ・ケイン、そしてボブ・ディランまで 取り上げられており”POW”、”Groove Holmes”、”In 3’s”などのインスト曲も織り混ぜた内容。
『Ill Communication』(1994)
バンドサウンドをベースにしてはいるが、当時のNYのHIP HOPスタイルに対応できるサウンドとなっています。
①の元ネタ、ジェレミー・スタイグの”SURE SHOT”、⑤の元ネタ、ジミー・スミスの”Root Down”もいいです。 全体的にアトロックのハイトーンボイスが効いていて何かロックっぽさが強い。キュー・ティップ(Q-TIP) ア・トライブ・コールド・クエストもゲストで参加。
⑦やマニー・マーク(マークニシタ、第4のビースティボーイズ)のキーボードも最高。
⑥のキラーチューン”sabotage”も聞きどころ。
PVはスパイク・ジョーンズと盛りだくさん。
その後の作品『Hallo Nasty』、『To The 5 Boroughs』なども良い作品なので機会があれば効いてみてください。
この音楽とこの時代の服をぜひ着てみてください!